【Web】ルールを変える思考法
ニコニコ動画を運営する株式会社ドワンゴの経営者、川上量生さんの著書。
川上さんは、良くネットメディアでも記事を拝見しますが、ロジックと感性両方がずば抜けており、且つバランスが非常に取れているイメージです。
社長でありながら、無給でスタジオジブリでも働かれる等、めちゃくちゃユニークな経営者。
その川上さんが、経営やコンテンツについて詳しく本著で述べられています。
読後の感想
ロジックと感性のバランス感覚が、めちゃくちゃに優れている経営者
川上さんは「ロジックの人」と感じます。元々がエンジニアなので、当たり前っちゃ当たり前なんでしょうけど。
その上で感性の重要さも理解している。そこに入り込む為に、感性をロジックで分析・言語化して曖昧にしない様に徹底する。
そして最後の感性の部分については、エイヤ!で突っ走る度胸を持っていらっしゃいます。
ドラッカーも「経営は科学(サイエンス)でもあり、芸術(アート)でもある」と述べています。前者をロジック・後者を感性と置き換えても良いと思います。
まさにそれを体現している経営者だと感じましたし、その重要性を再認識しました。(僕はどうしてもロジック重視で、感性部分を疎かにしがち)
■川上さんの根底にあるもの
根っからのゲームオタク
川上さんは、インターネット通信黎明期からゲームにハマっており、有名ゲームの立ち上げ期にいくつも参加していました。
そこで出会った優秀なゲーマー達を、ドワンゴにも入社させたりしている様です。
そうしたゲームの中でも、反射神経で戦う格闘ゲームでは無く、戦略性が要求されるシミュレーションゲームが好きで、そこでの多層的な思考の立て方が、現実世界でも役立っている様です。
また、初期のゲームではルールに穴があり、ゲームプレイに不便な事が多くありました。その時、川上さんは自らが発起人となり、より便利になる様な新ルールを作り、それがスタンダードとなる経験をしたそうです。
思考力を鍛えるにはゲームが適していると考えている理由のひとつは、シミュレーションゲームに勝つためには、まず「ルールの確認と検証」から始め、「そこから最適解を探していく」という作業が必要だからです。(p33)
昔の子どもたちは、鬼ごっこや缶蹴りといった遊びをするにしても、「どうすればもっと面白くなるか」「どうすれば、遊びをしている場所(地理的・環境的条件)を活かすことができるか」といったことを考え、ルールを変えたものです。そんなことをしてきた経験から、”ルールを変えるという発想”を自然に持つことができています。(p36)
ゲームにどっぷり浸かった経験が、そのまま今の川上さんの人間性・スキルに繋がっている様です。
■コンテンツ論
コンテンツとは何か
川上さんは、コンテンツを以下の様に定義しています。
コンテンツとは、わかりそうで、わからないものである(p60)
この理由を、人間の生存本能の話を引き合いに語ります。つまり、今まで生きていく中で既知の物や余りに関係の無い物については、興味が無くなったり無視をします。
一方で、自分に関係ある・知っている物だけど、違和感がある物(例:いつも食べているのに良く似ている異なるキノコ)は、良く注意をしないと良い物か悪い物か分からない。その為、興味関心を引く様に、我々は進化してきた、という話です。
これは、新規事業やサービスを作る時に覚えておくべき考え方でしょう。「斬新なサービスを!」といって、新たしすぎる物は、意味不明で無視される可能性があるかも、という事です。(経験あり)
このテクニックを使ったのが、エヴァンゲリオンでしょうか。
NHKトップランナーに映画監督の庵野氏が出演した時、以下の様な発言がありました。
これなんかも、違和感を利用した惹きつけ方の手法だと思います。
■脱・常連
人の入れ替わりがコミュニティを成長させる
衰退しないコミュニティ作りについて、以下の様に述べています。
かつてのオンラインゲームのように囲い込みをしようとすると、囲い込んだ人達は”常連化”していきます。それは短期的には有効であっても、長期的に考えると、コミュニティを衰退させる大きな要因になってしまいます。(p177)
これ、実際の仕事だと常連優遇をどうしてもしたくなるんですよね。僕も仕事でサービス改善をする時「今のユーザーはどういう人達で、何をすれば喜んでくれるのか」を考えてしまいます。
そこで川上さんは、「フラれる前にフッてしまう」事を勧めています。現状のサービスがまた十分に楽しんでもらえているのに、次のサービスへ移行していくという。。。
だからこそこの記事でも書かれている通り、ユーザーから批判があろうが新しい事にドンドンとチャレンジしているのでしょう。
これは非常に大きなポイントだと思います。ジャンルは全く異なりますが、新日本プロレスのオーナーも、同様の事をおっしゃっていました。
コアなユーザーがライトなユーザーを拒絶していたがために、プロレスが衰退していった面もありました。僕は“すべてのジャンルはマニアが潰す”と思ってい ますから。ただ、今のプロレスに関しては、そんな排他的なコアユーザーは少なくて、みんなでプロレスを盛り上げたいという気持ちが強い。(http://www.news-postseven.com/archives/20140102_234363.html)
有料動画サービスとして限られた成功事例であるニコニコ動画、今後のユーザーサービスについても、上記の観点を持ちながら、要チェックです。